
Stefan FINK | WOODEN FOUNTAIN PENS
2025年10月24日(金)- 11月17日(月)
ろくろ師、万年筆作家、家具職人、木の筆記具をつくる職人、プロダクトデザイナー、ドイツのマイスター。木の求道者、完璧主義者、スター、そしてエンターテイナー。シュテファンを伝える言葉はいくつもある。子供のころから木に囲まれて育ち、中学を出てすぐに職人見習いとなって、木工技術を磨いた。24歳で美術大学に進学して工業デザインを学び、4年後には自身の工房を設立した。
ある企業のプロジェクトで、シュテファンは木材を3年間寝かせる必要があると提案したが、彼らは半年で使用して大きな損失になった経験があった。木は使うひとの力を試す素材だ。「木は騙せない、自らの魂を写し出すものを作りたい」そう考えていたシュテファンが、生産の全工程に責任を持ち続けるというスタイルに到達したのは自然なことだろう。揺るぎない信念とともに、シュテファン・フィンクは業界的には稀な万年筆の個人作家となった。呼吸する無垢の木という生き物を携えて。
シュテファンのつくる万年筆は、まさに万年の名にふさわしい。今日や明日をまかなう道具ではなく、人生の大半つまり何十年、そして代を受け継がれて、永年生きる筆記具の存在感を放っている。ドイツ、ハイデルベルグの老舗ボック社によるオリジナルのペン先の地金には、Fink(ドイツ語で鳥名のアトリを意味する)の刻印が入る。思わず笑みが溢れるような木の膨らみとやさしい肌触り、理想的な重量、書き心地と持ちやすさは手にした人を驚かす。
天然木という有機物と、金属の精緻な加工、そして筆記用具としての卓越した機能を、これほど小さな構造のなかで何の矛盾もなく滑らかに一体に仕上げるには、彼の完璧主義と手の経験値、そして木を待つ時間が欠かせない。7~8年かけて自然乾燥させた木の目を生かしながら、一本一本、総べてが彼一人の手仕事によって造られ、金属の最終仕上げまで自ら施している。このチャーミングなフォルムに感性のルーペを当てれば、真似のできない洗練、そしてシュテファンの誇りと愛情がみえてくるだろう。

そのためだろうか。この万年筆には、人に書かせる力が宿っている。触れるうちに、なにかを書いてみたくなる。「書くこと、それは自分の魂と接触する正直な行為だ」とシュテファンは言う。はじめて万年筆をつくったのは1987年。今もときどきその万年筆で、彼は妻のアナベルにラブレターを書く。
今回9年ぶりとなる本展のために、万年筆界のスター、シュテファン・フィンクが新作とともに来日します。定番の万年筆をはじめ、30年かけて乾かした最高級のグレナディラに銀継をほどこした新作万年筆、ペンシルタイプのデッサンペン、水性ボールペン、映画監督のヴィム・ヴェンダースとの親交から生まれた携帯用のポケット万年筆など、書くための特別な道具が揃います。(2016年の展示会情報はこちら)

●Stefan Fink × kamisoe
本展では、京都で唐紙*作家として活躍する嘉戸浩氏が、シュテファンの仕事にインスピレーションを得て生まれた、オリジナルの和紙の便箋が並びます。また書けるオブジェとして存在感をはなつ和紙の立体物、シュテファンから託された木を版木にしたペーパーワークの数々も必見です。
*唐紙とは|木版手刷り技法である「唐紙」は、版木に絵具をのせて、一枚ずつ和紙に文様を写し取る、京都の伝統工芸のひとつ。
かみ添・嘉戸浩|kamisoe・Ko KADO
1975年京都市生まれ。2002年 Academy of Art University (サンフランシスコ)グラフィックデザイン科卒業。ニューヨークでグラフィックデザイナーとして活動後、帰国。京都の老舗唐紙工房で修行し、2009年に工房兼店舗「かみ添」を立ち上げ、独立する。建築関連の仕事に、和光本店地階改修(2024年、新素材研究所)、立礼茶室「然美」(2022年、Taiga Takahashi)など。その他に杉本博司、鹿児島睦、坂本龍一、Arts & Science, smbetsmbなどのアーティストやデザイナーに唐紙を提供する。

●Stefan Fink × 木の器
シュテファンがどうしても手がけてみたかったという木の器。長年寝かせていた極上のグレナディラと銀の蓋を合わせています。このグレナディラをろくろで挽く際にはあまりにも硬く、途中で何度も中断せざるを得なかったというエピソードが。蓋が駒のように廻るのは、いたずら好きのシュテファンらしいサプライズ。素材と技術の結晶がフォルムになった、現代ドイツの最高の職人技です。

●ドナータ・ヴェンダースが撮ったStefan Fink
『職人技への讃歌』(上映時間:約8分)
監督:ドナータ・ヴェンダース
ドナータ・ヴェンダース(Donata Wenders)は、ドイツの写真家・映画作家です。夫であるヴィム・ヴェンダースの映画制作に深く関わる一方で、独自のアートプロジェクトも数多く手がけています。現在、「職人技への讃歌(Ode an das Handwerk)」というドキュメンタリー・シリーズを制作しており、その一環としてシュテファン・フィンクの卓越した職人技に焦点を当てた作品を発表しています。本展では、ヴェンダース氏から許可を頂き、ギャラリーでは日本初公開となる本作を上映いたします。



シュテファン・フィンク|STEFAN FINK
1958年、ハンブルクでチーク材の商売を営む家に生まれる。中学校を修了してから3年間、ヴェルナー・ネーリングの工房に弟子入り。職人として、ハンブルクとミュンヘンのいろいろな木地工房で技術を磨いた。1982年から6年間、ハンブルク美術大学の工業デザイン科で学ぶ。1986年、ハンブルクに工房を設立。この年、フィンクは、書斎文化のデザイン・コンテストに出品。木が万年筆 にもってこいの素材であることがわかったのもこの頃であった。以来、木製の手作り万年筆の開発に着手する。
作品の収蔵先:
ハンブルク工芸美術館(MK&G)
フランクフルト応用美術市立博物館
ミュンヘン国立応用美術館(ノイエ・ザムルング)
シュレスヴィヒ=ホルシュタイン州立美術館(ゴットルフ城、シュレスヴィヒ)
受賞歴:
1991年 応用芸術協会(AdK)奨励賞
2004年 バイエルン州国家賞
2005年 ユストゥス・ブリンクマン賞
2016年 ハンブルク市・今年のクラフトマン
2016年 ドイツ・マニュファクチャリング賞

photo by Kai Boxhammer, Donata & Wim Wenders, gallery nichinichi